「随分と手こずっている様だな」

朝一で呼び出されてしまった。

本当は先輩とマリアさんだけで良いのに、マリアさんが僕も同罪だって言うから一応一緒に行った。まぁ、確かに一緒に任務をしているから、同罪には違いないけど。

それに朝一番でマリアさんに会えたから、それなりに・・・ていうか、かなり幸せだ。

本当はその幸せを噛み締めていたいんだけど、上司の苛々した声に邪魔をされた。

「お前達ならもう終了していても可笑しくない任務のはずだが?たかが少女一人を捕獲するのに、どのくらい時間をかければ、気が済むんだ?」

あぁうるさいな。

たかが少女って、あんたが闘ったわけじゃないのに、勝手なこと言わないでほしい。

椅子に座りながらもどこか、落ち着きのなさを感じさせる人物。

こう、落ち着きない人って、なんか、こう、見ていてイライラするな。

まだ、あのマナイキな少年やあの強くて綺麗なお兄さんの方がこの椅子に相応しいんじゃないかな?マリアさんと先輩だって、絶対そう思ってるはず。

あ、先輩、微妙に機嫌悪い?

なんか、部屋の温度下がったんですけど?

お願いですから、上司殴らないでください。

気分は良いけど、始末書、面倒だから。

まぁこの馬鹿上司がいつも以上に落ち着きを無くす気持ちも解からないでもない。

男と女が組んだ珍しい組み合わせだから、いつも注目されたし、腕は一流。

彼等に憧れてクレイズに入る人だっている。

まぁ、自分もその一人なんだけど。

だって、先輩はカッコイイし、マリアさんは美人。

こんな恵まれた職場は他には無いし。

容姿で騒がれることもあるが、依頼された任務は速やかに遂行することでも有名だし。

その人達がたった一人の少女を捕獲するという単純な任務を二回も失敗している。

上司の自慢の部下が未だに任務を遂行出来ていない。

神経質で今の地位を何よりも大切にしている彼にとって部下の失敗は痛手のはず。

「一度目は相手の力量を調べるため、二度目は少年の魔物を確認し、一般人の安全を優先しました。彼等の力は未知数です。二度の失敗は許容範囲だと思いますが」

淡々とした口調。

これが上司の苛立ちに油を注いでいるのだと、果たして先輩は気付いているのか?もしかして、気付いて、やってる?

それなら、なおさらたちが悪い。

上司、青筋浮かべてますよ?

「少年の魔物は強力です。魔物に免疫がない俺達には苦戦を強いられます」

先輩の言ったことは正論。

今まで人に対する戦闘技術は磨いてきたけど、魔物なんて見たのも闘ったのも、生まれて初めて。

僕としては、あのナマイキな少年がよく魔物を制御していることに驚いている。

「では少年を始末すれば良いではないか」

簡単に、そんなこと言わないでほしいな。

あの少女は確かに危険かもしれないけど、周囲の人達は彼女を守るために一生懸命なんだから。その一生懸命さを認めることがあっても、貶しては駄目だ。

大体にして殺せるくらい弱いならこんな任務、とっくの昔に終わってる。

それに

「今回の任務は少女『θ』の身柄の確保。無駄な殺しをするつもりはありません」

そうです、先輩。その通りです。

「では、『θ』の動きを止めれば良い。少年等が『θ』を足手纏いに思い、置き去りにする程度にな」

彼は自分がどれ程残酷なことを言っているのか、理解しているのだろうか?

それって、『θ』を人として認めてないってことだ。

確かに、無表情な子供だけど、あのコは人間だ。

それも、子供。

動きを止めるって事は、女のコに傷を付けるってことになる。

そんな酷いこと、先輩もマリアさんも自分も出来ない。

「彼等に限って少女を置き去りにすることはありません。彼女は少年の唯一の妹です。彼等の結束の固さは並ではありません」

うわぁ、先輩かなり怒ってる。頼みますから、無茶しないでください。

今減給されたらすごく痛いんで。

「上からの通達だ。早く『θ』を捕獲しろとな」

て、いうか捕獲って、本当に人間扱いしてないな、この人。

上からの通達?

そんなもの、僕は知らない。直接聞いていないから。

「・・・今度失敗したらそれなりの処置をとる」

別に、構わないよね。

先輩達がいなくなって、困るのは、誰?

本当に、将来も見えない人だね。

よく今まで仕事してこれたな。この人。

先輩達がいるから、あなたはここに座っているのに。

「しかし、少年は魔物を使用します」

「アレの使用許可をやる」

アレって。アレ?

良いんですか?

まだ実験段階のはずですよ。

その部署の友達が言っていたから確かだ。

僕達、もしかして実験台?

「しかし、それでは少女の無事は保証されません」

そうだ、確かに、保証はされない。

間違えれば、殺してしまうかもしれない。

そんなこと。

「構わない。『θ』がどんな状態だろうと、こちらは一切構わない。ただ、生きていればそれでいい」

ただ、生きていれば、それでいい。

・・・ひどいな。

データしか見ていないあなたには、『θ』は記号にしかすぎないんですね。

僕達は見ている。

『θ』がどんなコなのか、見ている。

そんな僕達に、生きていればどんな状態でも構わないという命令を下すんですか?

目の前が暗くなる。

イライラする。

こんな人の下で働いていたなんて。

先輩、僕、もう、キレました。

殴ってください。

思い切り。

止めませんから。

始末書なんて、何枚でも書いてあげます。

だから、こんな人、殴っちゃってください!!

「・・・解かりました。早急に少女の身柄を確保します。あの装置の使用法が解かる人間を後でこちらに回してください」

はい?

今、何て言いました?

良いんですか?

あのコ、傷付けても。

いつもなら、怒鳴るなり、殴るなりしているのに。

どうして、今回に限って、聞き分けが良いんですか?

「解かった。明日、そちらに行かせよう」

安堵の表情。

この人のこんな顔なんか、見たくない。

「よろしくお願いします。・・・失礼しました」

先輩、あんた一体何を考えてるんですか!?

いつも以上に無表情のまま、部屋を出て行く先輩。

マリアさんは慌てて先輩を追いかける。

本当は僕も一緒に追いかけたかったけど、一応挨拶しないと後々うるさいから。

したくもない、挨拶を申し訳程度にして、二人の後を追う。

「ちょっと、待ちなさいよ!」

マリアさんの声が廊下に響いた。






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